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今後のエンジン技術動向 その6 最近話題のあの話 [仕事]

これまで5回に渡り、私が考える今後10年程度先までの自動車エンジン技術動向予想を書いてきた。

最近、地球温暖化の問題が取り上げられる機会が増えているが、はっきり言って、過去から現在に至る自動車産業の発展が大きく影響しているということは事実だ。
その一方で、クルマが便利な道具として普及した今では、元のクルマのない生活に戻ることは困難だと思う人がかなりいるということも事実だろう。正直なところ、私もそうだ。

そういう葛藤の中、私たち自動車産業を生業としている人間が、環境負荷の低い商品を開発し、温暖化を抑制しようという努力をしているということを、少しでもご理解いただければと思う。
そんな中で、何も不自由なく見える大都市部の「再開発」と称した高層ビルの建設ラッシュや、同じく都市部の過剰なイルミネーションやネオン(特にクリスマス期)を見ると、我々の努力も、環境全体から見れば帳消しになっているなと寂しくなる。

そういう個人的愚痴は置いといて、クルマの技術動向がこの先どう変化していくかわからない中で、この話題には触れておくべきと思い、最終回のネタとする。

最近、バイオ燃料という言葉を見たり聞いたりしたことがある人は多いと思う。
トウモロコシやサトウキビから抽出・発酵により生成されるガソリン代替用のバイオエタノールや、ディーゼルエンジン用のバイオディーゼル燃料がある。

このバイオ燃料が注目されるようになったのは、やはり地球温暖化対策の一つとして、とても効果的であるからだ。

例えば、実際の走行中は全く排ガスを出さない電気自動車は、いかにも環境にやさしいクルマのように見える。
だが、そのエネルギー源となる電気を作る過程では、発電所でCO2を発生するし、構成部品には処分時の処理で苦労するようなものも多い。製品トータルのライフサイクルで見ると、普通のクルマと比較して、CO2削減メリットはあるものの、そのレベルは驚くほどではない。
うろ覚えで申し訳ないが、ガソリンエンジンのクルマに対して、80%程度のCO2排出量だったと思う。

ところが、バイオ燃料は生産時から消費するまでのトータルで見て、CO2排出量が普通のクルマの25%程度と、相当なレベル低減可能だ。原料となる植物は、光合成によりCO2を吸収するため、実際の数字はさらに小さくなるだろう。排ガスそのものもクリーンだ。
しかも、それを燃料として使うクルマは、従来のエンジンを小変更すればすむので、開発コストも抑えることができる
バイオ燃料は南北アメリカで普及の兆しがあり、ブラジルは世界で最も導入がすすんでいるし、先週日本でも開催されたアメリカの最高峰レース、IRL(インディ・レーシング・リーグ)では、今年から使用燃料がバイオエタノールになった

これだけ書くと、いいこと尽くめで、世界中のクルマをバイオ燃料対応にするよう普及に注力すべきと思われるだろう。
だが、残念なことにそれは不可能だ。
世界中の田畑でトウモロコシやサトウキビを栽培しても、そのすべてをクルマのためのバイオ燃料に使用するとしても、現在消費されている石油燃料を代替するために必要な量に、2桁も足りないのだ。
私たちが食料とする穀物や野菜全てを犠牲にして、この程度というのが現実だ。

20年、50年といった、長期スパンで考えた場合、従来の石油燃料とバイオ燃料、そして、次世代の燃料(理想的なことを考えれば水素ということになるのだろう)を、うまく使い分けていくことになるのだろう

果たして20年後、私の定年が近づいている頃、どういう技術が開発されているのか、楽しみでもあり、不安でもある。


これにて、本シリーズは終了とします。
そんなにおもしろくもない固い話にお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。


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バイオガソリンが東京地区50箇所で給油出来る様になるとの記事を見ました。でもお話のように穀物や果物、野菜系を犠牲の上での事なので、消費者から見れば不利益をこうむる事だと思います。
by (2007-04-26 23:47) 

めぎ

とても面白い記事でした。バイオ燃料は、例えたくさん生産できたとしても、光合成と同時に呼吸も行ってますから、CO2は実は植物からも排出されててあんまり効果ないんじゃないのかなあ、と素人としてはちょっと感じました。まあ、そのあたりも計算されているのでしょうけれど。
それから、再開発の件、私も同じようにちょっと矛盾を感じてます。あれだけのビルを集中管理する電気を作り出すのに、相当なエネルギーを何処かで消費し、CO2を出しているはず。車ばっかり攻撃されるのって可哀想。東京ではあれほどの過密スケジュールで電車が走ってて、24時間コンビニも開いててギンギンに冷房かけてこうこうと電気をつけてるし、夜中ずっと大量のエネルギーを消費してますよね。
by めぎ (2007-04-27 05:52) 

YAP

さすらう旅人さん、めぎさん、コメントありがとうございます。

さすらう旅人さん、
世界のどこかで、食糧難で苦しむ人々がいるということを考えると、やはり複雑な心境になりますよね。
私たちは何かを食べて生きているわけだし、それだけでなく経済活動も必要です。
バランスが大切ですよね。

めぎさん、
実は、都会でのビル乱立やイルミネーションの話は、書こうかどうかすごく迷いました。こういう話題は、マスコミの表現は批判するものは一切なく、触れてはならない「聖域」なのかなという世の中の雰囲気を感じていましたので。
nice! ありがとうございます。
by YAP (2007-04-27 08:05) 

炎遊人

CO2削減メリットも然ることながら、ユーザーの懐に優しければ(燃料代)それも大きな開発効果と呼べるのではないのでしょうか。
ですから、たとえ2割のCO2削減量でも世界的に受け入れられていくはずですよね。 小生は偉そうなこと言えませんが…。
燃焼効率が問題となりそうですが、メタンガスはどうでしょう。 排泄物や生ごみを町単位で巨大タンクに溜めガス生産する…技術的には解りませんが、実現すれば財政収入にも繋がりますし、これぞリサイクル、これぞバイオの力!ただ、不完全燃焼させると臭気が問題となりそうです。
by 炎遊人 (2007-04-27 12:40) 

YAP

炎遊人さん、コメント & nice! ありがとうございます。
メタンガスとはおもしろい発想ですね。
捨ててしまうもののエネルギを回収するというのは、すばらしいですね。
私は量産開発しかしたことないのですが、先行のそのまた先行開発みたいな形で、こういうエネルギの利用は研究されていることと思います。
今のこの時代、特に日本のようなエネルギ資源を持たない国は、何でも役に立ちそうなものは試しているのではないかと思います。
メタンガスといっても、炭素と水素の化合物ですから、きちんと燃焼させて、臭いも問題ないだろうと思います。
by YAP (2007-04-27 19:12) 

くっさめ

実際の開発の現場での考え、取り巻いている環境を興味深く読ませていただきました。
全世界の畑地を使っても需要量に2桁足りずですか。。。
そういえば、ブラジルのバイオ燃料の使用量が増えたので、世界の砂糖の値段が上がってきているという話を聞いたことがあります。
畑地の面積が限られているからなのでしょうが、かといってどんどん畑地を増やすわけにもいかないですからね。
環境問題について、いろいろな面から警笛が鳴らされていますが、自分も含めて、今何とかなっているから将来も何とかなるかもと思ってしまうところが考え方を変えていく妨げになってます。茹で蛙の喩えどおりにならないように何をしていくのかを考えないといけないですね。
とりあえず、車なし生活でしばらく頑張ります。(YAPさんへはごめんなさいですが)
by くっさめ (2007-04-27 23:13) 

YAP

くっさめさん、コメント & nice! ありがとうございます。
茹で蛙はいい例えですね。
まさに今の私たち人類のことを指していますね。
さらに例えると、今は沸騰しそうなくらいにお湯の温度が上がっているのだと思います。
一人一人ができることを考えていかないといけないんでしょうね。
クルマなし生活は、それはそれで正しい選択だと思います。
by YAP (2007-04-28 18:07) 

こきさんじ

スウェーデンでは現在、将来のバイオ燃料として森林にある木片とか小枝、バイオマス(燃料として使われる動植物)とアルカリ性の溶液をガス化、気化させて合成ガスを産出する試みをしています。その合成ガスが更にメタノール、合成ディーゼルそしてDME(dimetyleter、すいませんこれが何なのか日本語で探せませんでした。)という燃料に可変されるらしいです。ただやはり商業化になるかという問題でかなり時間がかかりそうですが・・・。ただ驚いたことにドイツでは第二次世界大戦中からすでにかなり大量の合成燃料を炭からガス化、気化してたということですし、現在でも天然ガスを合成ディーゼルにリフォームするのは既に商業化済み。こういう努力が遅くならない内に早く現実化に繋がることを願うばかりです。
ちなみにトヨタのプリウスは環境的にどうなんでしょうかね??
by こきさんじ (2007-04-29 04:13) 

YAP

こきさんじさん、コメント & nice! ありがとうございます。
すばらしいコメントをありがとうございます。
私よりも欧州内の事情にお詳しいようで、記事を補足してくださる形になって、とてもありがたいです。内容の厚みが増したと思います。
プリウスは、初代に比べて進化もしていますし、渋滞の多い都市部ではかなり環境的効果はあると思いますよ。
もちろん、全体的に見ても、エンジンの効率のいいところを積極的に使うような制御になっていますので、普通のガソリンエンジンのクルマに対するメリットは小さくないと思います。
by YAP (2007-04-29 10:09) 

こきさんじ

はっきりいって私こそYAPさんの記事や情報のおかげでそういう関係の新聞記事を見るときちんと読むようになりました。自分の知識と会話の幅が広がるということで一石二鳥です。本当はもっと車の性能に詳しくなりたいのですが、こればっかりは・・・(笑)
by こきさんじ (2007-04-29 19:34) 

YAP

こきさんじさん、重ねてのコメントありがとうございます。
ブログって不思議ですね。
遠い国にお住まいの人や、まったくの異業種の人や、全然趣味が異なる人や、いろんな人とつながる可能性を持っていて。
クルマそのものに詳しくならなくても、業界全体の動きや、世界の中での経済全体のつながりを理解されているので十分だと思います。
それに、よく考えたら、スウェーデン語の新聞を読まれているんですよね。
やっぱりすごいです。
by YAP (2007-04-30 18:46) 

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