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市場の怪しい商品にご注意 [仕事]

クルマの性能向上に効果的と謳っているアフターパーツが多くある。
カー用品店で売っているものもあれば、直接製造元から通信販売でしか買えないものもある。
これらの商品のうちのいくつかを、暇なときに実際にエンジンベンチでテストしたことがある。妙なものが好きな同僚が時々買ってきては、「ほんとかどうか試してみよう」ということでテストしてみた。すべて、エンジン制御用のコンピュータからの指示(燃料の濃さ、点火時期、等)を計測する各エンジン回転で最適化した状態と、ついでに元の状態そのままとで行なった。

例1;燃料系に巻くマグネット
謳い文句としては、「燃料の分子が磁力により燃焼しやすい状態になり、完全燃焼することにより出力、燃費が向上する」というものだ。パッケージには、20%パワーアップとある。
見た目は普通の磁石が数個、プラスチックのバンドに接着されているだけである。おそらく原価は¥100もしないだろう。
ふだん、テストで使用しているエンジンで評価したため具体的な数値は出せないが、結果は出力、燃費ともに、見事にびた一文変わらなかった。
そもそも、謳っている「完全燃焼」って何だ?ガソリンが完全燃焼すれば、窒素酸化物以外の有害な排ガス成分はほとんどなくなり、排ガス浄化用の触媒も簡略化できるはずだ。しかし残念ながら、エンジン本体が「完全燃焼」を実現できるような技術レベルに達していないので、その周辺部品を単品で変更しても「完全燃焼」は実現できない。

例2;点火系パーツ
いろいろな種類があるが、多いのは電装系のアース点を増やすものと、点火のハイテンションコードにコンデンサをかませて、「点火エネルギを蓄えて一気に放電し出力、燃費向上」というやつである。
アースとコンデンサを評価してみた。
まず、アースである。ただの太い電線を指定ポイントにつなぐだけである。見た目立派だが、原価は¥100程度か?ワイアハーネスという電気系の配線の束があるが、これのアースの線を太くするだけなので、自動車メーカが設計段階で取り入れればコストはほとんどかからないはずだ。
結果はまったく効果なし。当たり前である。そもそもアースがきちんと取れていないエンジンがまともに回るはずがない。数mVの電位の差でエンジンの状態に差が出るようであれば、そもそも自動車という製品として成立しない。バッテリーに負担がかかる寒冷地ではクレーム続出だろう。自動車メーカの純正でアフターパーツでも設定されていたりするが、エンジンルームの飾りが目的だ。
コンデンサを含んだハイテンションコードは、「点火エネルギを向上させ、燃焼速度を速めることで完全燃焼させる」らしい。どうやら「完全燃焼」というのは購買欲をくすぐるキーワードのようだ。
結果は、微妙に性能ダウンした。いや、テストのバラツキを考えると差がないというほうが妥当だろう。
そもそもエンジンに最初から付いている点火系の性能は、十分な能力を持つよう設計されており、実験で検証もされている。必要以上の能力を持っても、火花の強さだけでエンジンの性能が向上するわけではないので無駄である。ご家庭のガスコンロを想像していただきたい。最初に火花が飛ぶと、その周りから順に火が広がるのがわかると思う。点火プラグの火花が強くなっても、プラグの反対側のガス口に直接火をつけるわけではないのだ。エンジンの中もこれと似たような状態である。
エンジンに点火するために火花を飛ばすには最適なタイミングがあり、それから少しでも(1msecでも)遅れると性能はダウンする。この製品は、「点火エネルギをコンデンサに貯め込む」らしいので、その時点でいくらか最適な点火時期から遅れるのは間違いない。たとえ1msecでもその遅れは致命的だ。コンピュータからの指示が元のままの状態なら、高回転で排気部品が高温になりすぎて壊れるのではないかと心配していたが、それはなかった。それを考えると、ほとんど変化がないということは、このコンデンサも小さいものなのだろう。やはり見た目立派だが、同等のものは¥50*気筒数(4気筒エンジンだと¥200くらい)で作れそうだ。

例3.吸気系に巻くシート
これもいろいろなところから多くの種類のものが出ている。試したものは、金属と天然鉱石で対象物である吸入空気を「活性化」させ、燃焼しやすいようにしてエンジンに吸わせるらしい。天然鉱石がどういうものか知らないが、高い鉱物を使っているとしたら、とりあえずコストはかかっていそうだ。
しかし、原理がまったくわからない。いくら説明書を読んでも、世の中の原理原則を超越している。よく霊感商法の怪しい商品やマルチ商法を説明する主催者が、「これを理解しようと思ったら東大を首席で卒業できる」とか言ってるのを聞いたことがあるが、それと同じレベルに感じてしまう。
結果はまったく効果なし。もう何も言うことはない。ちなみにシリーズ製品で、貼ったところに効果がある(エンジンに貼ればパワーと燃費と騒音が、サスペンションに貼れば乗り心地が、ブレーキに貼れば効き具合が向上するらしい)という小さめのプレートもある。さすがにここまで行くと...

評価したのは以上の品々だけだったが、少なくともエンジン関係に関しては、私の知る限りこういう怪しい製品が多い。よく私が見ているインターネット上のクルマ関係の掲示板でも、肯定者(信者?)と否定者が定期的に白熱した議論が繰り広げられている。自分で購入して効果を体感しているという人も多いが、残念ながら暗示にかかってそう思う場合が多いだろうと思う。高い買い物だし、自分で楽しむ分にはかまわないが、他の人に勧めるのは控えてもらいたい。
ごく普通の人が実際にクルマで性能アップの効果が体感できるのは、エンジン性能でいえば10%を超えなければわからない。敏感な人は、それ以下でも違いに気づく場合もあるかもしれないが、多少の違いだと、差があるのはわかるがどちらが良くて悪いのかという判断が極めて難しい。偉そうに書いている私も、仕事でクルマに乗って評価する機会がありながらも10%以下の差を確実に判断できる自信はまったくない。燃費はさらに判断が難しく、実際の運転だとアクセルの踏み加減ひとつで20%くらいは平気で変化するので、正しい判断は自動車メーカにある高価な計測器で測らないとわからない。

ひとつ断言できるのは、これまでに私が見た範囲の製品では、どれも革命的な効果(完全燃焼とか)を謳っているので、書いてあることが真実ならば物理学・化学の常識をくつがえすようなノーベル賞レベルのものだし、自動車メーカが放っておくわけがない。こう書くと、「自動車メーカはコストを優先させるから」と言う人が必ずいるだろうが、謳い文句の効果が真実なら、その分同様の目的を持つほかの部品(出力なら可変バルブタイミングシステムとか、排ガス浄化なら触媒とか)が大幅に簡素化できて、逆にエンジン周りの姿を激変させるコストダウンが可能だ。
繰り返すが、すべての製品を調べたわけではないので、中には本当にすごいものが隠れているかもしれない。と、いちおう付け加えておく。

よく「海外で特許を取っている」とか「公的機関に認可されている」とか謳っている製品も多くある。広告を見て該当する特許を検索したことがあるが、実存する該当特許を見つけたことがないことも付け加えておく。

ネガティブなことを書き連ねたが、クルマを愛する一人として、甘い誘い文句で消費者の弱みにつけこむような商売にちょっと言いたかった。


次回予告;初めての海外出張 イギリス - レミントン -


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Flag☆Man

ラジオでのインチキな通販を聞いていてムカムカしてるフラマンです。
レースやってる人たちはオイルにこだわり持ってますよね。(特にバイク)
これからも面白いネタお願いしま~す!
by Flag☆Man (2005-07-13 07:52) 

YAP

Flag_Manさん、コメントありがとうございます。おまけに"nice!"までいただいて。
このネタは、クルマ関係の掲示板でも大紛争になりがちなことであるだけに、書いて良いものかどうか迷いました。
が、最近の悪徳リフォーム業者のニュースを見て、通じるものがあると思い書きました。
ほんと、嫌な話です。
by YAP (2005-07-13 18:42) 

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