SSブログ

日本の自動車エンジン技術の現状 [仕事]

2週間前に閉幕した東京モーターショーの話あたりからクルマ関連記事が続いているが、ずっと書こうと思っていたことに少し触れておきたいと思う。

最近、日本の自動車技術、特にエンジンに関しての技術が欧州メーカに対して後れを取っているように思える。だいたい5年くらいだろうか。
モーターと組合わせたハイブリッド技術に関しては、これは間違いなく世界の最先端を進んでいると思う。しかしそれもトヨタとホンダの2社だけである。
これは日本をはじめとするアジアの交通事情を考えるとひじょうな有効な技術なので、そちらへ向っていくということだろう。
しかしながら、やはり大部分を占めるエンジンのみのクルマ、そのエンジン単体で見ると、完全に欧州に先手を取られている。

私は以前、今後のエンジンの技術動向に関して記事を書いた。

ハイブリッドシステム
ディーゼルエンジン
ガソリンエンジン その1 その2

今や欧州で半数を超えるディーゼルエンジンは、排ガスもクリーンになり、燃費がいいので排出するCO2が大きく削減できる。
日本メーカーも欧州ではディーゼルを販売しているが、主力モデルとなっているかというと微妙な状況だ。
可変バルブリフトは、ようやくトヨタと日産が量産化し始めたが、先駆者たるBMWが多くの技術的課題を克服・改善し第2世代に進化しているのと比較すると、まだまだこれからだろう。
フォルクスワーゲンが積極的に進めているダウンサイジング過給エンジンは、追随する気がないのか、全く噂を聞かない。日本では未だに排気量信仰が強いというのも理由の一つだろう。(排気量信仰はアメリカ市場でも似た傾向がある)
日本では一時期増殖したガソリン直噴エンジンが排ガス問題に苦しみほとんど消えてしまったが、ヨーロッパでは今になって急増している。インジェクタ等のコンポーネントの進歩と、直噴ならではの旨みを引き出すことに成功したからだ。日本ではトヨタがレクサス系各車に再び採用し始めているが、従来のポート部にもインジェクタを残している(つまり各気筒2個!というハイコストなシステムになっている)ので、直噴のデメリットを消すことができていないのだろう。

今回の東京モーターショーで最も驚いたのは(正確には9月のフランクフルトショーで発表されたのだが)、メルセデスベンツが発表したHCCI(予混合圧縮自着火)という燃焼方式を実現したエンジンだ。
このHCCIというコンセプトはかなり前から存在し、排ガス中の有害な窒素酸化物が大きく削減できる。当然のことながら各社研究をしてきているのだが、運転可能な条件が限られ、車両として走行させるのはかなり難しいと言われていた。
それをショーモデルとはいえ、走行可能なモデルとして発表したのだ。

私は今は適合屋になってしまったので、こういう本体系の技術に直接関わることがなくなってしまったが、以前の仕事ではそれなりに業界の先端に近い位置にいたのにと思うと、今のこの状態が残念だ。
エンジンというのは燃料の持つ熱エネルギのうち30%程度しか有効に使えていないので、まだ開発の余地があるはずなのだが、基本的な形が何十年も変わっていないために、既に考えられる新しい技術は出尽くしていると考える頭の固い人も少なくない。
重箱の隅をつつくような開発になってしまっている感は否めないが、そういう仕事こそ日本人の得意とするようなところという気もするのだけど...

日本のクルマは「壊れにくい」という品質に関しては、未だにトップレベルにあると思う。
もちろんそれは世界に誇るべき技術だが、環境問題が大きく取り上げられる現在、性能という点でももう一度世界のトップに立つことができればと思う。
私もかげながら貢献できれば良いが。


nice!(9)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:自動車

nice! 9

コメント 8

いっぷく

車は外見のデザインとか乗り心地とかエンジン以外の部分で好きな車とかを決めてしまいます。エンジンを軽視するわけではないのですが、
よくわからないというのが本当のところです。
技術力の高い日本だと思ってましたから5年も遅れているかもしれないという
話にはちょっとくやしいな、という気持ですね。
by いっぷく (2007-11-24 06:21) 

YAP

いっぷくさん、コメント & nice! ありがとうございます。
ふだんは目に付かないエンジンですが、例えばアイドル時の振動、スムースな加速感、加減速時の挙動等、何気ないところで乗り心地にも大きく影響しています。
ほとんどの人には気づいてもらえないんですけど、いいんです。そういうところはわかって仕事していますから。
欧州に対する遅れは、私も同様に口惜しい思いがあります。

Krauseさん、naveさん、satoeさん、めぎさん、nice! ありがとうございます。
by YAP (2007-11-24 09:37) 

炎遊人

欧州でのディーゼル車の普及率の多さは肌身で感じてきたのですが、その暫く前、日本では東京都がCO2よりもNOX排出を問題視し、締め出しを実施しました。 いまや日本車を含めエンジン本体技術や触媒技術の進歩でNOX問題は解決されたと考えていいのでしょうか。
いずれにしても、欧州車然り既知の技術を付けたり外したり、はたまたBorn in the Racing technologyを提唱しそれが市場に受けられている以上、新しい技術は育ちにくい環境ではあるのでしょう。
しかしそういう環境において新しい分野に挑戦し成功させることが、日本の自動車工業の将来に必要であるとは思うのですが。
by 炎遊人 (2007-11-25 08:35) 

炎遊人

そうそう、重ねて申し訳ありませんが、小生のバカ車ですが最近になって気が付き感心していることがあります。 それはシフトチェンジ。
あの超大排気量の車を全開で走らせると、AT車でありながら、まるでMT車のような息つきのあるシフ音トを発するですが、乗っている者のフィーリングは至ってスムースです。まるで飛行機の加速感といったらいいのでしょうか。 もちろんコンピューター制御の成せる技なのでしょうが。
エンジン屋さんのYAPさんに申し上げる話ではない気もしますが、ATシフトの技術進化は結構目を見張るものがありますね。
by 炎遊人 (2007-11-25 08:48) 

ナツパパ

排気ガスの問題も大切なのですが、最近はガソリン代も深刻でして...
わたしのように仕事でも車を使うものにとっては、1リッター150円はきついです。
ディーゼルがより高性能になってくれば、そちらにしたいですねえ。
by ナツパパ (2007-11-25 09:13) 

YAP

炎遊人さん、ナツパパさん、コメントありがとうございます。

炎遊人さん、
最新のディーゼルは昔と違い、黒煙モクモクなんてことはありません。
燃費だけでなく、クリーンな排ガスも実現しています。
某都知事のパフォーマンスもあり悪者イメージが付いてしまいましたが、全てのディーゼルが悪いわけではないということを消費者に理解してもらわないといけません。
ATのシフトチェンジの話ですが、最近はエンジンとトランスミッション、トラクションコントロールとの協調制御が高度化され、シフトチェンジ時にうまくトルクを抜いて、ショックをなくすということが一般的になっています。

ナツパパさん、
一時期は環境問題といえば排ガスでしたが、今は地球温暖化問題もあり、燃費(CO2)の方へも目がいっていますね。
仕事でクルマを使われるとなると、今の原油高は深刻ですね。
nice! ありがとうございます。

Travelerさん、nice! ありがとうございます。
by YAP (2007-11-25 09:46) 

hideyuki2007y

はじめまして。コメントやnice!などをたどって流れ流れてきました。
私はオーストリアでVWのディーゼル車に乗っています。日本では国内メーカーのガソリン車に乗っていましたが、危惧していた、騒音・振動、排ガスはまったく気にならないものでした。当地ではディーゼル優遇の環境税制のため、自家用車の新車の90%はディーゼルエンジンとのことです。外国人は比較的ガソリン車を購入されている方が多いようですが、最近のオイル高で、ディーゼルに買い換えたという方もいらっしゃいます。日本の自動車会社が欧州勢に負けない、画期的なディーゼルエンジンをデビューさせるのを期待しています。
by hideyuki2007y (2007-11-26 00:41) 

YAP

hideyuki2007..さん、コメント & nice! ありがとうございます。
はじめまして。
欧州でのディーゼルのイメージは、ハイテク、インテリ等、ポジティブなものが多いと聞いています。
古い常識は払拭しないといけませんね。
日本では、今でも古いトラックとかが黒煙を吐いたりしているので、こういうところを何とかしなければいけません。
by YAP (2007-11-26 08:10) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

JAL 日本航空 特便割引

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。